日蓮とジェンダー(その2) 2007/12/05★からぐらの風 #0033 --------------------------------------2007/12/05 ----☆日蓮とジェンダー(その2)☆------------------------------------ 「男はこうで、女はこうである」といった形式的、紋切り型の認識や評言は、ときに抑圧と差別を生み出すことになる。それが日蓮の意図から離れて「ダイショウニンがこう仰せである」という形で突きつけられるとき、その抑圧効果は相当なものになろう。 --------------------------------------------------------------☆☆---- そのような意味から、私は切り文を集めた箴言集や日めくりカレンダーの類が大嫌いなのであるが、個人の好き嫌いはともかくとして、前回の「女子は門をひらく、男子は家をつぐ」のような文章も、ドグマとして固定化されると「女は家を継げない」といった差別の正当化に使われたりする。 日蓮に、そのような認識を固定化する意思はなく、むしろ抑圧された女性を解放する智慧の言葉であったことは前回みたとおりである。 日蓮が、男女の特質を固定して考えていなかったことは、次の二つの書簡からも明らかとなろう。 富木尼御前御書「やのはしる事は弓のちから、くものゆくことはりうのちから、をとこのしわざはめのちからなり。いまときどののこれへ御わたりある事、尼ごぜんの御力なり」(s1147.09,h955.05,p975.06) さじき女房御返事「女人は水のごとし、うつは(器)物にしたがう。女人は矢のごとし、弓につがはさる。女人はふねのごとし、かぢのまかするによるべし」(s997.08,h1125.04,p1231.04) 二つの書簡は建治二年と建治三年で、ほぼ同じ頃に書かれたものであるが男女に喩えた弓と矢が逆に使われている。 前者の「富木尼御前御書」は富木常忍の妻に送ったものであるが、有能な官僚でときに強引なところのある夫のコントロールの仕方をそれとなく教えたものと思われる。後者「さじき女房御返事」は、法華経の信仰をもった夫を尊敬して夫婦和合の信仰を貫くことを教えたものであろう。 夫婦それぞれの状況に合わせて譬喩がうまく使われている。これも智慧の言葉なのである。 次の場合はどうであろうか。一見女性蔑視とも思われる。 同生同名御書「女人はたとへば藤のごとし、をとこは松のごとし。須臾もはなれぬれば立ちあがる事なし」(s633.11,h596.09,p1115.06) これも決して女性が独りで立ち上がれぬとしたものではなかろう。ここで松に喩えられた四条金吾は法華経の信仰者であった。これも夫婦ともに信仰で立つべきを教えるとともに、無骨な四条金吾に彩(いろどり)を添えてリードすることを教えたものであろう。 日蓮が喩える「藤」は、本質的には我が身のことであり、「松」とは法華経信心のことである。 盂蘭盆御書「藤は松にかかりて千尋をよぢ、鶴は羽を恃みて万里をかける、此は自身の力にはあらず、治部房も又かくのごとし。我が身は藤のごとくなれども、法華経の松にかかりて妙覚の山にものぼりなん」(s1776.03,h1377.15,p1430.10) もうひとつの例をあげよう。女性の眉がつり上がりそうな表現がある。 四条金吾御書(九思一言事)「又女るひはいかなる失ありとも、一向に御けうくんまでもあるべからず。ましていさかうことなかれ」(s1438.14,h1198.09,p1176.08) 四条金吾殿御返事(不孝御書)「をうなるい(女類)どもこそ、とののはぐくみ給はずは、一定不孝にならせ給はんずらんとをぼへ候」(s1595.11,h1362.05,p_) ここでは女性を「女るひ」「をうなるい」(女類)と表現し、叱ったり、お説教してはならないとしている。ある意味でこれは女性を庇護すべき者とみる一方、女性を男性より一段下にみなしていることになる。近代女性の許容できる表現ではなかろう。 しかし、これは中世の武士四条金吾を相手にした表現であり、金吾の武士としてのプライドをくすぐりつつ、女性とのいさかいを避けさせ、かつ社会的に弱者の立場にある女性を庇護することを教えているのである。 女性と男性とでは、育てられ方も違うし社会の要求も違う。かつ生理的にも違うとなれば、ものの考え方、発想に相違があるのは当然で、双方誤解も生じやすい。そういうなかで、男性の常識の上で女性を叱責したり、小言を言ったりすると反発を受けるのは当然で、それが思わぬいさかいに発展することが多い。 そういうところから、この御書は、日蓮は四条金吾に女性への対応の仕方と智慧を授けたものといえよう。 日蓮の数多い書簡文には、このような生きる上での智慧が満ちている。私たちはドグマ化しやすい言葉を追うのではなく、そういう日蓮の智慧を汲み取りたいものだと思う。 (この項つづく) --------------------------------------------------------------☆☆---- _/_/^/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/~/_/_/ (ー_ー).。o○ からぐら文庫 : http://www.ginpa.com/karagura/ 魯ひとへのメールは : https://sv21.wadax.ne.jp/~ginpa-com/cp-bin/phpformmail/ ●関連記事からぐらの風・indexへ | |