パラドックスと自己肥大
パラドックスと自己肥大 2007/08/05★からぐらの風 #0027 --------------------------------------2007/08/05 ----☆パラドックスと自己肥大☆---------------------------------------- 『沙石集』に載せられた説話のうち、もっとも著名な話をご紹介する。おそらく皆さまも一度は聞いたことがあると思うが、それが『沙石集』から出た話であることは、案外知られていない。その説話とは「無言の行の話」。 --------------------------------------------------------------☆☆---- 四人の修行者が集まって無言の行をすることになった。 その間、一人が世話係として他の行者を助けることになった。 早朝から行を始めて、やがて夕刻となり、辺りは薄暗くなってきた。 しかし、世話係はうとうとしている。 そこで下座の行者が世話係を起して叱責した。 「早く灯りをつけよ」 それ聞いた中座の行者が、下座の行者を批判した。 「バカたれメ、声を出しおって」 その成り行きを見ていた上座の行者はひとりつぶやいた。 「皆バカな奴ばかりだ。結局無言の行を守っているのは俺だけじゃないか」 (魯ひと意訳) さて、作者の無住がこの話で言おうとしていることは、互いに他宗を批判しあっている念仏者や禅宗、そして法華衆がいかに愚かであるかということであり、自らの密教の立場を宣揚しているのである。 といえば、賢明な皆さまは、お気づきだと思うが、この話はパラドックスになっていて、そのように批判する無住自身が、話の中の上座の行者と同列になっていることを無住自身が気がついていないのである。人に「批判はよくない」と言った瞬間、そのように批判する己自身は何かということになる。今これを「無住のパラドックス」と名づけよう。 けっきょく、批判や議論を封じようとする人は健全でないということでもある。議論の封殺ではなく、いかに議論を価値的にリードしていけるか、その智慧と力こそが求められている。ところが、自らにそのようなリーダーシップや智慧がないことを、棚にあげて、「批判は許さん」とか、「生意気に批判をするな」というようなことを口走る人は少なくない。 傍から見ていると滑稽な「無住のパラドックス」そのものである。ご本人が気がつかず大真面目なのは、批判に伴う「自己の肥大化」に気がついていないからである。他(多)を束ねて批判するとき、他(多)の量が多ければおおいほど、自己が肥大している。下座の行者より中座の行者、中座の行者より、上座の行者の方が肥大化しており、その分、滑稽さが増すのである。 視点を変えて、批判の量、自己肥大化の量において、ヒトラーやスターリンを超える者は少ないと思われるが、それは彼らが犠牲にした人の数となって現れている。 日蓮もまた、確かに多くの批判をなした、日蓮自身が「悪名一天に弥(はびこ)れり」(s236.02,h266.04,p936.11)というとおりである。しかし、ヒトラーやスターリンと日蓮の違いは何か。彼らが多くの親衛隊に守られた宮殿に住んだのに対して、日蓮は人々の石つぶてや刀杖の難に身を晒し、かつ佐渡の配所や薄暗い身延の山中に住んでいたことであろうか。 いや、それだけではなく、自己省察が徹底していたことである。 「日蓮も又かくせめらるるも先業なきにあらず。不軽品に云く「其罪畢已」等云云」(s614.02,h580.09,p958.08) 「色心不相応の故に愚者のあなづる道理なり」(s614.08,h580.13,p958.12) そして、この自己省察の末に出てくる言葉が、「相模守殿こそ善知識よ。平左衛門こそ提婆達多よ」(s971.12,h1063.02,p916.12)であった。 日蓮ほどに、内省の深い宗教者は他にみられない。それが日蓮の最大の魅力ではある。日蓮は決して批判を封じはしなかった。 批判と肥大化というと、他を引くまでもなく、多くの批判を重ねてきた『大乗仏典』にもみられる。そこに描かれる仏陀釈尊のなんと巨大なことか。後期の仏典になるほど、説かれる仏陀は巨大になっていった。華厳経の仏陀は東大寺の大仏を生み出したし、阿弥陀経典もまた、巨大な阿弥陀像を生み出した。法華経も例外ではない。寿量品の仏のなんと巨大であることよ。 日蓮は、法華経本門寿量品にたどり着いたとき、さらにもう一回転する必要を感じたのではないか。それが私の種脱相対の理解であり、仏身論の理解である。 このあたりのことは拙著『日蓮自伝考』284頁でも、論じたことであった。 --------------------------------------------------------------☆☆---- _/_/^/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/~/_/_/ (ー_ー).。o○ からぐら文庫 : http://www.ginpa.com/karagura/ 魯ひとへのメールは : https://sv21.wadax.ne.jp/~ginpa-com/cp-bin/phpformmail/ ●関連記事からぐらの風・indexへ | |