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真蹟至上主義の落し穴 2007/06/25





★からぐらの風 #0014 --------------------------------------2007/06/25
----☆真蹟至上主義の落し穴☆------------------------------------------

 「ぼくは真蹟のある御書しか読まない」「真蹟だけの御書全集をつくるべきだ」とおっしゃる方に幾人もお会いした。しかし、それは出土品だけでお城を復元しようというようなもので、はなから無理な主張だと思う。また、真蹟に書いてあることが日蓮の思想だと断言できるのかという問題もある。日蓮の言葉と表現は時系列で変化している。ひとつの御書に何度も手を入れている例もある。引用にしても肯定的引用と否定的引用の違いがある。現代文法との違いもある。断片化した真蹟だけでは正しい読解は不可能だと思う。

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 今回、ご紹介するのは、報恩抄にみえるある言葉。

 現行の紙本の御書全集(p312.15)では、
「弘法・慈覚・智証の誤り、国に年久し。其の上禅宗と念仏宗とのわざわい(禍)
あいをこりて、逆風に大波をこり、大地震のかさなれるがごとし。」

と表記されており、これは編年体御書(p908)でも同様である。

 しかし、稲田海素『御遺文』や『昭和定本』、さらに近年編纂の諸本『平成新修』、『平成新編』では、いずれも「国に年久し。其の上」の文言がなく、「并に」という接続詞であとに繋がっている。

 そこで、『御書全集』にみえる文言の出処を調べたところ、『刊本録内』が、その淵源であることが分かった。録内本では、そのようになっている。

 この録内本を真蹟に照らして補訂した、日乾の真蹟対校本をみると、「国に年久し。其の上」に抹消線を引き、「并に」と傍書してある。身延曽存の真蹟ではそのようにあったと思われる。

 従って、近年の諸本は、日乾の真蹟対校本に従ったということであろう。真蹟そのものが焼失(明治八年)してしまった今、判断としては、日乾対校本に従うよりないと思われるが、注意しなければならないのは、そもそも刊本録内がいかなる本に依って出来たのかということである。

 小さな異同はともかく、このような大きな異同があるのは、真蹟異本の存在を予感させる。十大部のような重書では、門下に送られたものとは別に、手元に手控えがあったと考えるのは無理なことではない。そうでなければ、門下からの問い合わせ、質問にも答えられないであろう。じっさい、立正安国論をはじめ、異本の真蹟断片が処々に伝わっている。

 また、刊本録内の表現を採用した現行の御書全集本は、日乾対校本の判断を排除して、刊本録内に従っているわけではなく、判断に一貫性がないようである。例えば上記引用箇所だけでも、「念仏宗」とあるところは「刊本」では「浄土宗」とあって、「念仏宗」としたのは日乾対校本による判断である。

 今回、<からぐらデータ>を第五版に改訂するに当たり、ここをどのように判断するか、日乾対校本に従うか。堀師の判断に従うか、再思再考、迷いに迷ったのである。最終的に自ら判断できない時は、無理しないで通説に従う、ないしは元版に従うという原則にしたがって、今回は手を付けなかった。

 じつは、開目抄にも、法華取要抄にも、撰時抄にも真蹟異本は存在したし、四信五品抄にも真蹟異本の存在が窺える。そうあれば、日蓮の本意は滅失した異本にあったのか、現存本にあるのか、にわかには判断できないことだと思う。

 立正安国論は、現在、中山法華経寺にある真蹟と京都本圀寺にある真蹟(広本)の二本が現存するが、中山の真蹟は、一時廃棄処分されて詩集の料紙に転用された歴史を持つ。もし、これが現存せず、京都本圀寺のものだけが残っていたとしたら、おそらく立正安国論のイメージは大きく変わったことであろう。両者の執筆立場は同じではない。

 御書の学問的な研究においては、真蹟があれば、古い刊本は必要ないとは決して言えないのである。丁寧な幅広い研究が求められている。丁寧な、丁寧な地道な研鑽が求められている。学問に短気と効率主義は禁物である。

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